第五章 業 - Magic Recruit

 彼は無言で街を歩いていた。

 街は夕暮れの赤に染まっている。アルディは、いつもその美しい街の赤を見て、楽しみながら歩くのだが、今日の彼は何も感じていなかった。夕日も、街も、帰途に着く人々も、額に角が生えている人がいようとも、彼は見向きもしなかった。

 ただただ空虚であった。怒りや悲しみさえ今の彼の心には存在しなかった。ただ生きる屍のようなものに成り果てていた。内にこもってしまっていても、内にさえ何も無かった。

 しかし、その彼にも今、暖かいものを感じていた。シャントだ。アルディの体にくっついているわけではない。しかし、彼女が側にいるだけで、確かな温もりがあった。

 シャントは、後悔の念を抱いていた。彼女自身は、後悔というはっきりとした意識はない。人間のそれと似た胸の痛みを感じていた。

 確かに、あの状況でラントを助けることができたのは、アルディしかいなかった。だが結果として、アルディはまたも就職口を逃してしまったのだ。彼女は、主人を苦しめてしまった、その責念にかられていたのだ。

 アルディは、その温もりにすがるように言った。

「俺は、正しかったんだよな?」

 消え入りそうなか細い声だった。シャントに話しかけているのか、自分へ向けて言ったのか。シャントの胸にズキっと痛みが走った。妖精にも、意識というはっきりしたものはなくとも、心はある。生きている限り。

 あっけらかんと放たれた言葉だが、その内に、自分が人を助けた喜びと、魔導社で言われた事、歓喜と、悲哀がぶつかり合っているのが痛いほど伝わってくる。

 夕暮れに染まる街並みは、徐々にその色を変えていった。

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