第四章 母 - Magic Recruit

 街の昼はいささかひっそりとしている。心なしか人通りは少ない。昼間というのは、仕事の時間であり、皆、建物の中におり、黙々と机に向かって書類を漁っている時間だからだ。マーリアルの街も例外ではない。魔法の仕事に就く者は、夕方の儀式に向け、準備を進める時間だ。外に出るといえば、お昼の時間で食べに出ている者くらいだろうか。

 この時ばかりは、仕事で張り詰めた表情の者などいない。そう、忙しさに右往左往するこの国の労働者達にとって、この昼の時間は至福の時なのだ。もしこの国に、この時間が無くなれば、皆死に絶えてしまうだろう。

 そんな労働者達に埋もれて、アルディは隣の国の郷土料理の店で、"パスタ"と呼ばれる麺料理を食べていた。好き嫌いの多い彼にとっては、唯一の大好物である。

 彼は、街行く人をボーっと眺めていた。口は動いている。

(この中に何人が仕事していて、何人が仕事をしていないんだろか...)

 前年に起きた、恐慌は酷いものであった。巷に失業者は溢れ、一年経った今でも雇用状態は最悪だ。仕事をしていることの方がめずらしい、そんな時代に入っていた。

 無論、この街も大きな打撃を受けている。技術はあるのに、それを生かす場所がない。そんなやり場のない憤りが街には溢れている。そういった時代に一番犠牲になるのは、決まって青年である。若く、才気あるのに、経験が少ないからと、その場の姿だけで切り捨てられる。若い彼らは、憤激する。『自分の能力で人生を切り開きたい! なのに、誰も認めてくれない!』青年達のやり場の無い叫びが充満した時代でもあった。

 彼はそんな事を考えながら、パスタを食べ終え席を立ち、歩きだした。

(見た目じゃ、その人が仕事をしているかいないかなんてわからない。能力だってそうだ。今、ドジばっか踏んでても未来にはすごい技術者になってるわからない。なのに、一度の失敗で決め付けやがって、くそ!)

 彼もまた憤激する青年の一人なのだ。今まで受けた魔導社では失敗ばかりだった。しかし、一度した失敗は二度としなかった。

 だが、次々と新しい失敗を彼は繰り返していた。自分に対する苛立ちもあったのかもしれない。頑張れば頑張るほど、失敗が重なる...。いっそ頑張ることを止めようか......。

 彼はそこまで考えてハッとなった。いつも、ここまで考えると浮かんでくる言葉があるのだ。

『夢は必ず叶う! あきらめなければ!』

 彼の祖父の言葉。彼はいつも、あきらめそうな自分を、この言葉で叱咤激励する。そうするとなぜか一瞬で迷いは消える。

 彼の祖父は、錬金術師であった。祖父もまた、若い頃はドジを踏んでばかりであったという。その祖父も、晩年は国一の錬金術師と云われるほどになった。その秘訣は、夢を叶える秘訣とは、"あきらめない"ということなんだそうだ。その言葉は、単純明快かつ祖父の経験の全てからにじみでているような言葉であった。

 彼は一人うなづき、「よし」と小さな声を漏らした。

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