第四章 母 - Magic Recruit

 お母さんのとっておきの料理がテーブルに並んだ。カエルのぶつ切りソテーに、マンドラゴラの葉のサラダ、マムシの切り身......。

「ちょっと待てーー!!」

「え、なに?」

 お母さんはけろっとしている。

「何が、とっておきだ! ゲテモノじゃんか!!」

 ものすごい光景である。この世のゲテモノトップテンが勢ぞろいといったところか。紫色の湯気が昇っている。さしものシャントも、この光景に顔をひきつらせたような表情を見せた。

「なーによ、あんたが魔術士になりたいって言うから、魔力増強の食材使ったスペシャルメニューにしたんだよ! ほら四の五の言わないで食べる!」

 アルディはもの言いたげにお母さんを一瞥したが、今日様々なことがあったせいか、空腹にも限界がきていた。彼のお腹が、隣に聞こえるくらいの音をたてる。彼は意を決し、ゲテモノ料理を口に運んだ。と、彼は思わず自分の舌を疑った。

「...うまい...」

 口の中に広がるまろやかな味わい、ほどよい、肉の焼けた香りが鼻腔を支配するし、食欲を掻き立てる。彼の口と手はもう止まらなくなった。次々と、料理に手が伸びる。

「ほーほほ、だから、人は見かけによらないんだってば」

 そう言うと、お母さんも食卓につき、食べ始めた。

 お母さんの特技は、どんな食材も高級料理にしてしまうことだ。アルディはそれをすっかり忘れていた。彼のガツガツ食べる姿を見て、妖精用に作られた料理を食べ始めた(お母さん自身、本を見るまでそんなものがあるとは知らず、シャントに気を使って、気休め程度に作ったものなのだが、シャントが食べてくれているので、少しホッとしたようだ)。

 和やかな会話が続く。しかし、どうしても、話はアルディの就職の方に向かう。

「だから~、別の職種も探しなさいってば」

 お母さんは、息子に何千回、何万回と繰り返し言ってきた言葉を、再度言う。

「わかってないなー、俺はやりたくないことやっても続かないんだって。それだったら、やりたい仕事やって長く続けた方がいいじゃんか!」

 屁理屈にもほどがあるが、その時のアルディは本気でそう思っていた。世の中の人みんなそうすればいいのに、とさえ思っていた。

 しばらく、そんなやりとりが続いていた。シャントは二人の様子を交互に見ていたが、決着が着かないと知るや、ヒューっとビンの中に入ってしまった。今日はかなり力を使ったとでもいうのか、彼女はそのまますぐに眠りに入った。

 ボロアパートの一室は、深夜になるまで明かりが消えず、二人の影が小踊っているのだった。

ページトップへ戻る