第五章 業 - Magic Recruit
石、それは、この星の歴史を刻んだ長物。魔術においても大きな意味と効果をもたらす。特にパワーストーンと呼ばれる宝石には、強い力が備わっている。アクアマリンには健康と富、ガーネットには精神力の強化、といった具合に、石固有の力があるのだ。魔術の中には、その力を数倍のスピードで発揮させて使い、行う術も数多くある。
アルディは、本の記事を読みながら、ピンクトルマリンを磨いていた。今日の試験はこいつが必要なのだ。力としては、人と人の縁を強くするもの...と本には書いてある。
「まぁ、こんなもんかな...と」
石が綺麗になったのを見ると、その宝石を慎重に小さな綿の袋に入れた。石の大きさは、人差指の先ほどだが、これで二スコールもするのだからたまったもんじゃない。ちょうど、一般の眼鏡のフレームとレンズを合わせて買えるくらいだ。扱う手も慎重になるのは当然の事である。
他の道具もカバンに詰め、アルディは立ち上がった。シャントがヒューッと寄ってくる。部屋から出ようとする彼の後を付いてきた。
「おっと、試験会場までだぞ! 場内には妖精は入れないからな」
アルディは念を押した。このところ、シャントは外に出ていなかったためか、どうも"散歩"に出たがっていたようなのだ。
(まったく、一人でいきゃいいのに)
なんて彼は一瞬思ったが、妹分ができたと思うことにするか、と思考を返した。付いてきたがるのは、中々どうしてかわいい。
シャントはいたずらっぽくクルクルと宙を回っている。彼はニコニコしながら部屋を出た。
マーリアルの街は活気に満ちている。今日は街を歩く人が多く、騒々しい。特に主婦層が多い。そんな客をターゲットにした出店商店も大はしゃぎだ。
アルディは試験の時間までかなり余裕があるため、しばらくシャントと一緒に散歩することにしていた。
「今日は天気がいいなぁ」
彼はボーっとしながら、街を歩いていた。
人ごみに飲まれている間だけは、全てを忘れることができた。今までのこと、就職のこと、そして自分自身の事さえも。
アルディにはたまにこういう衝動にかられることがあった。まるで自分自身の存在が不明瞭になり、世界に溶け込む感覚。なんでそんな感覚になるかはわからない。ただわかっていることは、とても疲れている時にその感覚に襲われる、ということだけ。
悠久の時をさ迷う彼を、袖を引っ張る何かが引き戻した。シャントが何やら、来てほしいって言っているようだ。
「ん? なした、シャント。おしっこか?」
妖精はおしっこなどしない。軽く冗談を言う彼に、真剣なまなざしを向けるシャント。
「?」
なにかわからないが、他に行くあてなどない彼は、彼女の後を着いていった。