第四章 母 - Magic Recruit

 日は沈みかけている。春とはいえ、まだまだ日は短い。特にこの国は南極に近いからか、年中日は短い。

 アルディは、収穫した実に、その場でまじないをかけていた。その作業もひと段落し、さぁ帰ろうとした時には、少し遅い時間になっていた。

「やべ、早く帰んないと二人とも心配するなぁ」

 と言いながらも、足取りはマイペースに家路へとついた。

 帰りには魔道具の売買を行っている商店に寄っていき、先ほどまじないで加工した実の半分を売却していった。これがまた中々いい値段になる。宝石と一緒で、魔道具も、原材料そのままより、加工品の方が値は高くなる。といっても、一日頑張って採ってきて、三千メル程度なのだが...。せいぜい一人暮らしの自炊で五日分の食費といったところか。

 やっぱこれだけじゃ生活できないよな、なんて、うなづき、彼は家路の続きを急いだ。

 日が落ち切る前にはボロアパートに着いた。階段の窓から夕日の鮮やかな赤い光が差し込んでいる。明日も晴れかな、とぼんやりと思いつつ、自分の部屋の階まで来ると、大荷物を持ったお母さんとでくわした。

「あら、アルちゃんお帰り! 遅かったじゃない~」

 アルディはきょとんとしている。

「なんだよ、もう帰るの?」

「そうだよ~」

 お母さんの間延びした返事が返ってきた。

「てっきり何泊かしてくのかと思ったよ」

 お母さんの家、もとい彼の実家は、マーリアルからけっこう遠い場所にある。日帰りは少々厳しく、たまにこうしてお母さんが来る時は、何泊かしていくのが常であった。

「う~ん、まぁ、商品券も使い切っちゃったしねー」

「......」

 だから大荷物なのか、と自解するアルディ。しかし、一日中森を歩き回った疲れから、それ以上言葉がでない。

「アルちゃん」

「?」

 妙に元気な声で、お母さんは言った。

「ここまで来たんだから、必ず魔術士になりなさい! お母さん、これからアルちゃんのこと応援することにしたから」

「......へ?」

 アルディは一瞬何を言われたかわからなかった。今までお母さんに一度も言われたこともなかった言葉だからか。

「もー、何ボヘっとしてるのさ、明日も試験なんでしょ? 準備しなさいってば」

 そう言うと、お母さんは、ニコニコしながらアルディとすれ違い階段を降りていった。

「じゃぁね~」

 お母さんはパっと振り向き、別れを告げると下階へと消えていった。

 アルディはしばらく呆然としていたが、お母さんが何を言ってくれたのかがわかってくると、急に嬉しさやら安心感がこみ上げてきた。

(お母さんが認めてくれた......?)

 彼はそれでいて複雑な気持ちであった。しかし、なぜかはわからない。わからないが、我が母に自分の目指す者が認められたのだ。彼の頬に一筋の涙が伝った。

「あれ、何泣いてんだよ俺......」

 静かな涙は止まることなく流れた。

 彼の前には、彼の目指す道を応援してくれる者は現れなかった。高等学園の先生に、友達、教会の司祭長、お父さん、そしてお母さんでさえも。みんな彼が努力しているのは知ってくれていたが、全面的には応援してくれていなかったのだ。そのお母さんが、今、自分が魔術士になることを応援してくれると言ったのだ。彼にとっては、世界一嬉しいことのように思えた。

 そう、アルでィは自分の事を、母に一番認めてほしかったのだ。

 ポロポロ流れる涙を拭き、彼は夕日に向かって叫んだ。

「よし、お母さんに恩返しするんだ! 泣いてなんかいられない!」

 意を決した彼の足取りは軽い。まれでステップを踏むように、部屋に入った彼を、シャントが陽気に迎え入れた。

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