第四話 闇の異業 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL

「ね、ねぇ、いいの?賞金とか...。それにあたし一人でよかったのに。」

 ホール入口まで差し掛かった時、ウィーネはたまらず聞いた。カールは歩みを止めて答える。

「おいおい、早くしないと取り返しのつかないことなんだろ?賞金うんぬんやってたら、時間かかる。あのご婦人が黒い球になってもいいのか?金なんて、いつでも手に入るよ。」

 カールは頭を掻きながら続けた。

「それに、エスコートする約束だしな。」

 ウィーネは、いざという時は自身の利益を省みず、人のために行動するこの青年に胸を打たれた。

 しかしカールは、言ったものの、心中は悔やみの極みであった。貴族の間で突如起こったイベントだ。カールの勝ち具合からしても、賞金は十万ギルは下らなかっただろう。だが、時間には替えられない、と腹を括った。

 二人は、ホールから廊下に入った。と、カールから素朴な疑問が投げかけられた。

「そういや、その女を追っかけるのはできるのか?ホールから出てしばらく経つぜ?」

 ウィーネは「大丈夫」と小さく言うと、目を閉じ詠唱しだした。

「彼のものを知りし者よ、観る者よ、過去遠々劫より全てを記し記録よ、我が無知を浄化せんがため、彼の十法を顕したまえ。」

 詠唱は、静かに、そしておよそその意味の文章量とは思えないほど高速で行われた。また、ウィンダス古語で唱えられたが、ウィンダス古語を解さぬガールにもなぜか意味だけが脳裏に焼き付けられた。魔力が篭った言葉は、言語を超えたこの世の法則そのものの言葉に通じるため、こういった現象が起こる。

ライブラ!

 ウィーネは詠唱が終わるや否や、目を見開き、魔法名を唱えた。と、周りの風景が一変した。その場にいないはずの、ありとあらゆる人物が現れだしたのだ。廊下を歩くもの、壁際で何やら話す若者。人種も様々だ。だが、共通してることは、すべからず透けているということだ。まるで、いくつもの映画フィルムを重ね合わせて上映しているかのようであった。そして何より一番に連想されるのは、ゴーストが大量発生したのか、という状況だ。カールは、ホラーなこの状況に驚愕し、身震いしながらも、ウィーネに問うた。

「ど、どういうことだ、これは!ライブラって、確か、対象のステータスとかわかる魔法だろ?ゴースト大量発生してんじゃねーか!」

 ウィーネは微笑み答えた。

「この人達は、ゴーストじゃないよ。この場自体に残っている、記憶みたいなものかな。ライブラの応用技なんだ。物や空間にもバイト記憶というものが宿っていて、それに対して、ライブラをかけると、その記憶を覗くことができるの。」

 カールは益々頭が混乱した。人間や生物、モンスターになら記憶が残り、それを覗くことも可能であろうが、記憶媒体もないはずの物や空間自体にと言われても、魔法学に疎いカールの理解の範疇をとうに越えた話であった。

「理屈はいいから、カールにも見えるように魔法かけたから、一緒にこの中からあの女の人探して!」

 言われたカールは、理解が追いついていない中、いったん考えるのを止め、切り替え、このゴーストまみれの中から先程の女を探した。

「お、いたぞ。」

 ほどなくして、カールは件の女を見つけ、指差した。二人は互いに頷き合い、女の尾行を開始した。

ページトップへ戻る