第四話 闇の異業 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL
女の足は、高階層のファーストクラスフロアへと伸びていった。この飛空挺は、クラスによって、階層が分かれており、各階層の間では検問が設けられている。カールらは、第二のレギュラークラスとなっているため、ファーストクラスフロアへは、本来行く事ができないが、ウィーネのロウバニシュ(白魔法バニシュの下位互換魔法)の魔法によって、存在感を消すことで、検問をスルーすることができた。
女はファーストクラスエリアの奥まった部屋に向かっていった。ライブラによるゴーストは、女の他、二人のアルエルタ族と、もう一人の深いフードを被った大男も増え、四人は部屋へと入っていった。部屋からは、微かにだが話し声が漏れている。カールは、ウィーネに耳打ちした。
「どうやら、ここが終着らしいな...。」
ウィーネは頷き、小声で詠唱し、空間にかかったライブラの魔法を、デスペルの魔法で解除した。二人はなんとか中の様子を確認できないか探ると、不用心にも、僅かだが部屋のドアが開いてるのを発見した。
カールはその状況に微かだが、違和感を覚えたが、その違和感が明確にならないうちに、ウィーネが勢い込み、ドアの隙間から部屋の中を覗き始めたので、ため息を一吐きそれに続いた。
部屋の中には、ライブラで現れた女と、アルエルタ二人、そして大男がいる。女と、アルエルタの高官のような格好をした方が、激しく口論をしているようだ。
「だから言ってるでしょう、これ以上モノは提供できませんわ、と!」
「ソコをなんとカしテ頂きたいのでス。その方ノ好きナ金もアル。」
会話は、ガンズルム語で行われているが、お互いの主張が平行線を辿っているようだ。
『なんだか、ラチがあかないような感じだな。...ん?ウィーネ、どうした?』
カールは小声で感想を述べ、ウィーネに話しかけたが、ウィーネの様子がおかしい。彼女は目を見開き、大男の方を睨んでいる。
『あの大男がどうかしたのか?確かに怪しいけどよ。』
『...アルスエル族。なんでこんなところに...?』
カールはウィーネの口から出た種族のことは聞いたこともなかった。
アルスエル族。それは、亜人族のアルエルタ族の中でも亜種である。全身が細かい体毛で覆われ、突き出した半月型の頭部を持つのが特徴のアルエルタ族だが、アルスエル族には毛が一切無い。突き出た頭部だけが共通で、一種異様で、不気味な容姿を持つのが特徴だ。その姿からそのまま、「毛のないアルエルタ」と呼ばれる。元来強力な魔力を持つアルエルタ族ではあるが、アルスエル族のそれには敵わない。突然変異で、何万人かに一人の確率で生まれるようで、かなり珍しい存在である。そして、定かではないが一部の噂では、更なる魔力を求めたアルエルタ族が自らの同胞を勾配し、人工的に作られて誕生したのがアルスエル族、とも囁かれている。ウィーネは端的に説明したが、とかくそんなに滅多にお目にかかれない存在である、ということのようだ。
二人は、そのアルスエル族に着目しつつも、高官アルエルタと、ヒュームの女貴族の会話の聴き取りに集中した。
「デは、額を倍にすれバよいのですカナ?」
「〜〜っ!」
女は金の話に反応し、声にならないうなり声を挙げた。さしずめ、金が多くもらえるのはいいが、どうしてもアルエルタ高官の要望に応えられないので葛藤している、というところか。
「ど、どんなに金を積まれようとも、要望には応えられませんわ!確かに我が社の人的資源は豊富でも、これ以上は、誰にも説明がつかなくなってよ。」
カールはアルエルタが求めているもの、女が対応を拒否している"モノ"が何かを察した。
『...ウィーネ、当たりだなこりゃ。黒い異物の材料の話だ。女はどうやら大企業の関係者だろうが、とかく、大人数の人間を拐える立場らしいな。あの女自身が黒い球になるって話ではなさそうだけどな。』
『...。』
ウィーネは、薄々カールが言ったような内容と思っていたが、明確にされると、さらにモヤモヤが強くなり、眉間にしわを寄せた。母国が国を挙げて人道に外れた行為をしていること、そして、それに協力する者が存在することに、激しい憤りを感じたのだ。
「...ツマリ、これ以降、協力はできなイト?」
アルエルタ高官の問いに、女は無言で睨みつけ、応えた。誰が見ても応えは"イエス"である。
高官は、もう一人のアルエルタと小声で何事か相談した後、アルスエルの大男に言い放った。
「どナウゔぃル。」
その言葉を聞いたウィーネは目を見開いた。高官はウィンダス語で確かにこう言ったのだ。「処理しろ」と。