第四話 闇の異業 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL
最初は好奇の目に晒されていたこの卓だが、次第にその目は尊敬と、驚嘆の目に変わった。結果はカールの三連勝。それも、その対戦の流れは終始鮮やかなものであった。最初、カールが不利に見えるも、後半で一気に盛り返し、大逆転する、また、カールが圧倒的有利な時は、後半でギリギリの所で追いつかれるも、最後の一手でリード仕切るという、まさに魅せる勝ち方をしていたのだ。四回戦が始まる頃には、別卓の観戦者も集まって大盛り上がりになっていた。対戦者のエルヴァーンは、最初は余裕の表情だったが、対戦を重ね、主力カードが奪われていく中、苦渋の表情となっていった。
『...すごい、側から見ても、戦略的に理にかなってるのがわかる。...カードのルールはわからないけど。』
ウィーネもカールの対戦に魅せられていた。ルールがよくわからない者も魅せる、妙な魅力がそこにあった。
だが、ウィーネにとっては、所詮カードゲームという感覚が拭えなかった。エルヴァーンは意地になり、対戦回数は増えていきそうな流れが見て取るや、ウィーネの興味は削がれ、周りに目をやった。
と、先程エルヴァーンにクアッドミストで負けたヒュームの女性が、ホールの入り口付近で、二名のローブを着たアルエルタ族と何やら話しているのが目に止まった。女性と、アルエルタ族らは、程なくして、ホールから立ち去っていった。
ウィーネは、何かよからぬ予感がした。ダークスフィアの原料は人間...。そのことが頭によぎった彼女は意を決したように、翻り、その場を後にしようとした。
「待ちな、ウィーネ。」
と、勝負に集中していたはずのカールが、卓を睨みながらウィーネを呼び止めた。
「何を考えてるか知らねーが、止めておけ。」
「...何を知って、言ってるの?」
ウィーネは上から睨みつけるように、カールを見やった。当然の疑問である。なにせ、カールはゲームに集中していた。ウィーネが見たもの、何を思ったかなど、知る由もないはずだからだ。
「おおかた、さっきホールから出てった、ヒュームのねーちゃんを助けようとか思ってんだろ。」
ウィーネは驚嘆した。女性と、アルエルタが話し、去っていった時も、カールはクアッドミストをしていた。しかも、ちょうど、カールが背を向けている側の入り口で起こったことだ。にも関わらずこの青年は即座にウィーネが何を見、何を思っていたのかを見透かしたのだ。カールは続けた。
「確かに、ローブのアルエルタ組に、連れてかれんだから怪しい事この上ないさ。だがな、確証もないうえ、おまえが行ってなんになるよ。下手な考えはよせ。」
非情かもしれぬが、正論である。
「でも!」
ウィーネは、救える人がいるなら救いたかった。何もなければそれでいい。だが、確認せずに、もし自身が救えた人間を見捨てることになったなら、後悔が残る。そんな想いに駆られていた。
「...それに、俺たちも追われてる身だぜ。ここまできといて、捕まるってんならなんのためにここまで来たんだよ。」
「...。」
ウィーネは、ブリ虫を噛み潰したように、苦い顔をして言葉を失った。確かにそうだ。なぜ、命を狙われてまでここまできたのか。この先多くの人が犠牲にならないために、不正を正すためだ。何より、祖国が間違った方向に向かっていることを止めたかった。ここで、足止めを食うわけにはいかない。同時に、だからといって、目の前の人の命を奪われることをむざむざ見過ごすことができるであろうか。
「...それでも、あたしは行くよ。」
カールは、それを聞くや、「はぁ〜〜。」と、深いため息をついた。そして、カールとウィーネのやりとりの間、ずっと次の手を考えていたエルヴァーンに、カールは言った。
「あー、飽きたな。もういいですわ。やめにしましょう。」
卓は、観客も含め、騒然とした。ウィーネはきょとんとし、しばし呆然としてしまった。カールは、エルヴァーンから獲得したカードを卓に置き、言った。
「これも返しますよ。じゃ。」
言うや、席を立ち、去ろうとした。我に帰ったエルヴァーンは、まくし立てるように引き止めた。
「ま、まま待ちたまえ、何を言っている!勝負はこれからだぞ!」
周りにいた者たちも我に帰り、エルヴァーンを見やったが、どこをどう見ても満身創痍である。その場の者全員が、勝負は着いている、と思った。
「いやだって、やっこさん、あと手札五枚で、勝負もクソもないでしょ。その残りカスみたいなのも取られたいんですかね?」
ボロ負けをし続けた上、勝負を中断され、挙句に、カードも返されたエルヴァーンのプライドはズタズタに引き裂かれた。
「な、な、なにを、とにかく待ちたまえ!」
エルヴァーンは、もうとにかく吐けるだけの罵倒を浴びせ始めた。カールは、もう悪口を放つだけの蓄音機と成り果てたその男を背に、ウィーネの手を取りツカツカと歩き出した。カールのその不可解な行動に、辺りの騒然はしばし鳴り止まなかった。