第四話 闇の異業 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL
列の進みはゆっくりであったが、ほどなくしてカールとウィーネも船内に入ることができた。内装もご多分にもれず、豪華絢爛の極みであった。乗客たちは、慌ただしく、自身の部屋に行く者、子連れで看板に向かう者などで、入り乱れていた。プロペラ式のこの飛空挺は出港の際、そこまで衝撃が無いため、乗客は乗った瞬間から船内を自由にできるのだ。
カールとウィーネは、まずは自身の部屋へと向かった。
部屋に着くと、これまた豪華なスウィートルームであった。しかし、ベッドはダブルであった。
「言っとくけど、やらしいこと考えないでよね。」
ウィーネは、なるたけ辛辣に言おうと努めたが、恥ずかしさが先行してしまい、声が若干上ずってしまった。
「へいへい...。なんなら床で寝るからお構いなく。」
カールの方はというと平気そうで、むしろウィーネに興味も無いような素ぶりにさえ見えた。ウィーネは、安心した反面、自分に魅力がないのか、など少々複雑な気持ちになっていた。
「あれだなー、ディナーまでは時間あるし、少し船内の探索でもしてみっかな。ウィーネも来るか?」
ウィーネは、一緒に行こうか迷ったが、どこにウィンダスの刺客が潜んでるかわからない。下手に動かない方が、いいと思い、断ることにした。
「や、あたしはやめとく。」
カールはさも残念そうに腕を頭の後ろで組み、言った。
「なんだよ、つまんねーなー。いや、というか学習能力ないな。」
「どういうこと?」
ウィーネはムッとなって、聞き返した。
「だってよ、昨日は宿屋で部屋にいる時に襲われたんだぜ?一箇所にいる方が逆に危険じゃねーかなーってね。」
ウィーネは、それは屁理屈というか、宿屋の話であって、今は空の上だ。そして、今は豪華客船ときている。このセキュリティで刺客がくるものか、と考えたが、確かにカールの言い分にも一理あるなとも考えた。やつらならどんな手段をしてくるかわかったものではない。
「わかったよ、一緒に行く。」
「お、やりー、女の子と飛空挺デートだな、こりゃ。」
ウィーネはデートという単語に反応し、顔を真っ赤に染めた。というか、これまでの二人での状況も、よく考えれば、他者から見たらデート以外の何物でもない。改めて意識すると、とてつもなく恥ずかしくなってくる。
「ジョーダンだよ、ジョーダン。まぁ、でも気晴らしはした方がいいだろ?さ、行こうぜ。」
カールはウィーネの手を引き、歩き出した。ウィーネは、突然の事で、飛び退くくらい驚いたが、まんざらでもない様子であった。カールは先程は興味ない素振りを見せていたが、そんなことないではないか、とも考え、恥ずかしさが増していくのであった。
「?」
ウィーネは、カールの手に触れた瞬間、恥ずかしさと同時に、違和感を覚えた。カールの手が、硬く、冷たかったのだ。肌の色や様子は他の人間となんら変わりないのに、その温度と硬さは、不可解であった。まるで死人のそれを想起させた。だが、ウィーネは、今までろくに恋愛経験も無く、年頃の男子の手に触れることなどなかったため、男の子の手はこういうものなのかもしれない、と、その思案は通り過ぎた。何より、その異性交遊の経験の無さから、恥ずかしさの方が勝っていたのである。