第四話 闇の異業 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL

 二人は船の甲板に出た。船はいつの間にか出廷していたらしく、眼下には、サンドリアの北東部にある、ロンフォール平原が広がっていた。時刻は夕刻に差し迫っていた。遠くに山並みが見え、その合間から、仮初めの夕日が覗いている。その景色は元々美しいであろうが、夕日の陰りで一層人の目を奪うものになっていた。二人は手すりに手をつけ、その景色をじっと眺めていた。

「そういや、ある小説のワンシーンでこんなのあったな。豪華客船の船首で、男女二人が夕日に照らされて、こう寄り添うやつ。」

 その小説は世界的にあまりにも有名なためウィーネも読んだことがあった。女性は貴族の出だが、男性の方は画家で、仕事で豪華客船に乗っていたが、本来ならとてもその船に乗れるようなご身分ではなかった。その出会うはずがない二人が、あるきっかけで出会い、恋に落ちるというラブロマンスストーリーである。が、ウィーネはあきれ面で言葉を返した。

「...それ最終的に船沈むやつでしょ。縁起でもないこと言わないでよ。」

「ははははは、そうだった、そうだった!」

 カールは腹を抱えて笑いだした。

「すまん、すまん。いや、でも綺麗な景色じゃないの。しかし、これが偽物とはな。」

 カールは感慨深そうに言った。

「仮初めの夕日、消えゆく闇...。」

 ウィーネはぽつりと言い、昨夜の夢を思い出していた。ダリスの元でウィーネは、魔法の技術と共に、闇とダーククリスタルに関しても研究をしていた。どうすれば闇を維持できるのか、ダーククリスタルの力を失わずに、夜を作り出せるか、を。しかし、その答えは出なかった。そのうちに、ウィンダス内のヒュームに対する弾圧は激化し、ダリスの勧め通り、ガンズルムへと亡命することになったのだ。ウィーネはそれでも、ノーリスクでの闇の維持を諦めていなかった。なぜなら、心底恨む人同士の争いの起因はそこにあったからだ。

 ウィーネは、カールに何気なく聞いた。

「どうすれば、争いは無くなるかな。」

 カールは答えに窮した。答えは明瞭だったが、今彼女に告げるのは酷なような気がしたのだ。彼は若けれど、様々な人の争い事に身を投じてきたため、世の中が、人がどういう生き物か知っていた。ウィーネが求めている答えは「闇が回復すれば、人は争わない」といった類である事がすぐにわかったが、答えは残酷であった。闇が回復すれば、人は争わなくなるのか。否である。だが、カールは少し考え、希望を持った答えを言うことにした。

「...そうだな、まずはダーククリスタルが力を失わないようにすることが第一義だろうぜ。そして、その先だろうな。」

「その先って?」

 カール自身その先なんて皆目見当もつかなかったが、なんとか誠実に答えようと、また自身に希望を言い聞かせるように言った。

「その、なんだ、世界中の人が、ほんの少しでも人のことを考えられれば、なくなるんじゃねーかな。人がされて嫌なことをしない、ただそんだけじゃねーかと思う。まぁ、発展途上の国とかにそれを言うのはかなり酷だとは思うけど、まずは、四大国からそれを国民一人一人がやれるようになるよう、リードすること、じゃねーかな。いや、何言ってんだ俺は。」

 カールは、自分で自分が何を言っているのかがわからなくなった。まるで政治家か宗教家のようだ、とも思ってしまった。なぜそのようなことを自身で言ってしまったのか、皆目見当もつかなかった。

 ウィーネは、最初は意外すぎる発言に面食らったが、誠実に答えてくれたカールに心底感謝した。

「そうだね、そうだよね。ありがとう。」

「お、おう。」

 カールは、恥ずかしさを紛らわすように頭を掻き、言った。

 と、後ろの方で、二人の男性の会話が聞こえてきた。

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