第三話 下手な嘘 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL
「...。」
「......。」
永遠にも思える数秒間。だが、一向に何かが起きる気配はない。
「ふブ、どナウだビラあセア!?」
アルエルタは何事か叫んだ。ウィンダス語で、「なぜ、誰も来ない!?」と言ったようだが、何かトラブルが起きた事は明らかである。しかし、隙を見せているわけではないようで、ウィーネは簡単に動く事ができずにいた。
と、窓の外からから、人影がぬっと現れた。
『ち、きたか...!』
このまま、誰も現れず、一対一ならばなんとかなりそうだ、と淡い期待をしていたウィーネだったが、そうは問屋は卸さなかった。アルエルタは安堵の表情を浮かべたが、現れた人物を見るやいなや、驚愕の色を見せた。
「あーあ、もう夜中に隣でドッタンバッタンされたら寝るもんも寝れねーや。」
「か、カール!?」
窓から現れたのは意外な人物であった。
「助太刀が必要かと思ってね?」
「...大丈夫、いらないから。」
カールの親切心にも、未だにツッケンどんにするウィーネ。
「ふーん、さすが強気だね。でもこれならどうよ?」
ズルッ...
しかし、カールが、窓の外からひきづり出してきた者を見て、ウィーネは考えを改めんとした。それは、目の前の刺客と同じく黒いローブを羽織った、三名のアルエルタであった。刺客は、合計四人だったのである。窓の外に待機していたのだろう。
「流石に四対一じゃ、まずかったんじゃねーの?」
『確かに...。こんな狭いところで魔法を放つわけにはいかなかったし...。』
カールは、残ったアルエルタに向き直り、言い放った。
「さぁーて、どうするよ?魔法の国の兵隊さん。おたくをサンドリアの憲兵に突き出せば、いい金になりそうだけどよ。おまけに戦争になるかもだけどな...。」
「...。」
アルエルタのアサシンは、顔に冷や汗を浮かべたが、至って冷静に状況を分析しているようだ。数秒の睨み合いの後、素早く、カールの側にノビている三人の兵士を担ぎ、そのまま窓の外へと消えていった。
「ほらな、一人旅は危険だろ。なんか知らんが、おまえは追われてるらしいしよ。」
「...。」
カールは尚も皮肉った言葉を放った。ウィーネは、認めたくなかったが、カールの言う事に反論はできず、黙っていることしかできなかった。なぜなら、カールの助けが無ければ、今頃、冷たくなっていたのかもしれないからだ。
「...。」
「...。」
お互いが素直になれず、気まずい沈黙が流れる。しかし、意外にも口火を切ったのはカールの方であった。
「いや、その...。俺が、悪かったよ。捻くれた聞き方とかしてよ。馬車の時も、その、今もよ。だから、その、もうちょい、信用してくれ。単純に、助けたやつが野垂れ死ぬのは寝覚めが悪ぃんだ。それだけなんだよ。」
カールは精一杯に言った。顔は恥ずかしさやら、情けなさで真っ赤になっていた。ウィーネは、こちらも詫びを入れねばとの一念と、意外にこいつもかわいいところあるな、とのお姉さんのような感覚も覚えた。ウィーネは、和解しようと意を決し、言った。
「こっちこそごめん...。そしてまた助けてくれてありがとう。」
ウィーネの方も恥ずかしいやら、なんやらで、顔を赤らめて、言った。二人は顔を合わせると、お互いにはにかみ笑みを浮かべた。
「その、ガンズルムまで、エスコート、お願いできないかな?」
「任せとけって、ヒゲのサンタさんからお駄賃ももらってるしな。」
二人はクスクスと、笑い合った。
月明かりが、仮初めの星空が、いつまでも二人を淡く照らしていた。