第三話 下手な嘘 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL
チョコボ車は、目的地であるサンドリア領内、城塞都市、ファジリスタに到着したが、依然荷台の中は沈黙に支配されていた。
「傭兵さん方やー、到着したんだけどもよ...」
チョコボ士は、荷台のカーテンの隙間を覗きながら遠慮がちに言った。
「だーとよ、さ、行こうぜ。」
数秒の後、バルドスが切り出した。バルドスがのそのそと荷台から降りると、二人は無言で続いた。
「いやー、ほんとに今回は助かりました、あんたらでなかったら、わしらは今頃、ハデス様のお迎えが来てたかもしれねぇ。」
商人はそう言って、今回の依頼の代金か、バルドスに巾着袋を差し出してきた。
「なーに、俺らなんてまだまだ端くれよ...、って少し多いんじゃねーか?確か今回は四万ギルって言ってなかったけか?」
四万ギルは、上級市民の仕立て屋の給料の二ヶ月ぶんに相当する。
「いえいえ、額よりもとんだ働きをしてもらっただ、わしら四人からのほんの気持ちでさぁ。」
商人が、微笑みチョコボ士らを見回すと、彼らも細っそりと微笑んだ。
「へへ、そいつはありがてぇや、額に文句言った俺らにバチ当たらなきゃいいがな。」
「いやいや、バチあたりは社長の方だよ、あんたら命がけだもよ、ブルジョワはその気持ちさわかってねーだよ」
商人がそう言うと、五人は大爆笑した。
「で......。」
商人は、カールとウィーネを見やって、遠慮がちに続けた。
「あの二人は、大丈夫なんかね?」
二人は顔を合わせずじーっと立ち尽くしている。ウィーネは、しばし俯き気味だが、カールの方は割と気にしていない様子だ。だが、機嫌が悪いのは火を見るよりも明らかである。
「あー...。まぁ、あんたらの気にすることじゃねぇーやな。若気の至りってやつだろうよ。」
商人らは、心配そうな面持ちであったが、時間が迫っていたのか、そそくさとカールとウィーネにも一礼し、チョコボ車を引き、去っていった。
気不味い空気は、なおも引きずられていた。バルドスは頰をポリポリと掻きながら、如何ともし難く、その場で二人と共に立ち尽くしていた。
「んで、どうすんだい、亡命のお嬢さん?」
意外にもカールの方からあっけらかんと切り出した。ウィーネは、一瞬キッとカールを睨んだが、そっぽを向いてポソッと言い放った。
「空挺便でガンズルムへ向かいますが、今日はこの街で宿をとります。」
カールは、あ、そ、と小さく言い、その場を後にしようとしたが、バルドスに摑みかかられた。
『おいカール、お前、ウィーネちゃんをガンズルムまで送ってけ。』
「はぁ!?」
バルドスのひそひそ話に、カールはすっとんきょうな声を上げた。バルドスはさらに押さえ込むように掴み掛かった。
『いいか、ウィーネちゃんが機嫌悪いのはおまえが百パー悪ぃ。』
『あぁ、そうだろうな、だからなんだってんだよ。』
ウィーネは怪訝そうな表情でその様子を見ている。バルドスは続けた。
『ここら辺はまだ国境付近で危ねえ、同じ宿屋であの子を護ってやれ。』
『だから、なんで俺がそこまでしなきゃならねんだよ...!だいたい、あいつは多分手練れだ、簡単にゃ死なねえよ...!』
カールはイライラがピークに達していた。
『そうかもしれんがな、おまえ、自分が助けた人間が、道半ばに死んでいいのかよ、って話よ。』
『.........。』
バルドスのこの言い分にカールの耳は止まった。
『...だいたい、金にもならねぇことするアホがいるかよ。』
カールの心が動きかけていることを悟り、バルドスは追い討ちをかけるように提案した。
「金なら、依頼料金から上乗せられた分、おまえにそっくりやるからよ、まぁ、追加依頼だと思ってよぉ。」
カールは怪訝な面持ちでこの談の最大の疑問をぶつけた。
「...なんでそこまで、あの女に肩入れする?」
バルドスは、顎に手を当て、気取って答えた。
「おまえの女っ気のためだ。」
「...。」
カールは言葉を失ったが、金が入るならと、渋々承諾した。バルドスは、カールの承諾の意を受けて、金を取り分けカールに渡し、手をひらひら二人に別れを告げ、その場を後にした。
ウィーネは怪訝な顔でそれを見やっていたが、すぐに、これからどうするか、と思案顔に戻った。
二人の間には相も変わらず沈黙が流れる。
「あー、そのなんだ、物騒な世の中だし、ガンズルムまで俺がエスコートしてやるよ。」
「...。」
その言を受け、ウィーネは怪訝な顔を更に引きつらせた。カール自身も今のはさすがにない、と自戒した。
「お気遣いは嬉しいですが、本当に大丈夫なので。」
言うや、ウィーネはツカツカと、宿屋へと歩き出した。カールは、「ちょっと待てよ!」など言いながら、さながらフラれた女に追いすがる男のように、後をついていった。カールは心中、情け無さや、自身でも解せぬ行動から、カオスが渦巻いていた。