第三話 下手な嘘 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL
ウィーネは再び夢を見ていた。ウィンダスにいたころの、高等魔学院時代。依然ヒュームに対する弾圧は続いていたが、魔学院の教授で、ウィーネの師匠である、ダリス・マクレーガンの庇護のもと、魔法学の研鑽に邁進していたころ。
ダリスの研究室は、小ざっぱりとしている。
「ウィーネさんは、ヒュームにしては筋がいいんですけどねぇ、脇が甘い。」
片眼の眼鏡を携えたアルエルタ族の壮年がウィーネに語りかける。その表情は非常に穏やかであった。
「マクレーガン師匠に仰られたら、形無しです。精進します。」
ウィーネは恥ずかしがりながら、殊勝に応えた。
「...ウィーネさん、あなたは聡明だ。なのに、なぜこの国に居続けるのですか?」
「それは...。」
唐突な質問に、彼女は口をつぐんだ。彼女に明確な理由はなかった。庇護を受けているといえど、虐げられている身だ。ましてや今の時代、魔法を学ぶのであっても、どの国もウィンダスと遜色ないくらい技術の発展はある。他の国に亡命すればいいのだ。しかし、彼女はダリスの勧めを受けていながら、頑なにウィンダスに留まる意を変えようとはしなかった。
「父の雪辱を晴らしたいだけなんだと、思います。この国のヒュームに対する憎悪をなんとかしたい、そのためにここにい続けているんだと、思います。」
ウィーネは自身でさえ解していない、行動に、なんとか理由をつけようとした。挙句この考えしか浮かばなかったようだ。
「そうですか...。」
ダリスは目を細めて感慨深く言った。
「ウィーネさん、そうするには、敵を倒さねばならぬ時がある。あなたの大嫌いな戦いをしなきゃいけない。なぜなら、そんなあなたの理想に反する者は、あなたを亡き者にしようとするからです。」
ウィーネは俯き、唇を噛んだ。母を狂わせ、父を死に追いやり、この国もめちゃくちゃにし続ける、争い。彼女は心底憎んでいた。ウィンダスをではない。争う人間の心をである。
「そして、知らねばなりません。身近な人間があなたの敵かもしれないということを。」
ウィーネは、ダリスのその言葉に少々違和感を覚えた。
ダリスは、ウィーネに背を向け何物かを手に取り、振り向いた。
「!」
ウィーネは、振り向いたダリスの手に持った物を目にし、驚愕した。ダリスの手には、ククリ刀が携えられていたのである。
「そう、気づくのが遅かったんですよ、あなたを邪魔に思う人間が、すぐ側にいることを。」
「し、師匠...?」
たじろぐウィーネに、ダリスはジリジリと歩み寄る。
「ウィンダスの栄光をこの目にするまでは、どんな些細な邪魔も残してはならないのですよ。」
「!!!」
ダリスは、驚愕のあまり、身動きも取れないウィーネに、無情にも獲物を振り下ろした。