第六章 一瞬の永遠 - Magic Recruit

 "妖庵院"を後にした時は、すでに街は赤から藍色に染まりつつあった。幻光虫が顔を出しだす時間である。

 アルディとシャントは、言葉も無く(もっとも、言葉を出せるのはアルディだけだが)街を"歩いて"いた。別に喧嘩をしたとか、険悪な雰囲気というわけではない。ただなんとなく、無言であった。

 ふと、シャントはあることに気づいた。いつも帰るアパートへの道のりではない。別の場所へ向かっているようなのだ。

 彼女はそれがなぜかを問うように、アルディの顔の前に出てきたりした。

 アルディは、シャントがそのことに気づいたと知ると、軽く微笑み、そうしてまた道に目をやった。

 シャントは、とりあえず、悪い方向に行くわけではないことがわかると、それ以上"追求"しないことにしたようだ。また、アルディの歩く脇で、後に付いていった。

 二人は、家々の隙間の路地に入っていった。夜の闇は濃く、ただでさえ昼間での薄暗い路地は星のない夜空のようにくらい。一寸先も見えないほどだ。

 そのような闇の中では妖精の光はよく映える。アルディは、その光を頼りに路地の奥へと進んでいった。

 と、最奥部には、灰色のレンガの壁があった。壁は横に大きくアーチしており、アーチの両端からは、まっすぐな壁が続いている。アルディは、シャントに聞かせるように語った。

「ここがどこだかわかるか? この街の城壁なんだぜ」

 シャントは首をかしげた。が、少々の間の後、思い出したようにうなづいた。彼と最初に街から出たときに見えたあのバカ高い城壁を思い出したようだ。

 このアーチは、どうやら塔の部分らしい。

 アルディは続けて、家の路地裏から城壁まで来れるのはここだけということと、この塔は今は管理されてないので、容易に侵入できるのだということを語った。

 彼は、シャントの光の他に"ライトニング"の魔法(ランプの中に、火ではない光を点す魔法)で壁を照らし、何かを探しだした。

「お、あったあった」

 そう言って彼が見つけたものは、古びた木製の扉であった。

 彼が、錆びた金属のノブに手をかけると、扉はいとも簡単に開いた。全く無用心なことだが、それだけこの塔の存在は忘れ去られているということが伺える。

 彼は"ほらね"とばかりにシャントに目配せをし、扉から塔の中へと入っていった。

ページトップへ戻る