最終章 この時のために - Magic Recruit
街はまだ明るい。昼時の賑わいを見せていた。仕事をする者も、昼ごはんを済ませようと外に出ている時間。街行く人は、様々な表情の者がいた。カフェで笑い話をする女性同士、眉間にしわを寄せてツカツカと歩く者、紙を片手にあたりをキョロキョロするもの。
その中アルディは歓喜に満たされていた。社を後にしてしばらくは、まだ実感が沸かなかった。だが、数十メートル歩くにつけ、ふつふつと、歓喜が湧いてきたのだ。
「あれ、俺、受かった、受かったん、だよ...な、魔導社に」
彼は小さく独り言した。
言いようのない歓喜である。今までの努力、苦難、辛苦、思い、悔しさ、悲しみ、それら感情と、経験、全てが報われ、解放された。バラバラだったピースが合わさり、一つの絵となった、そんな感覚。彼は、解放された。報われないという、地獄の檻から解放された。心が解き放たれた。
「..............................やったーーーーーーーーーー!!!!!」
彼は、人目もはばからず叫んだ。魂の底から叫んだ。周りの人々は、彼を奇異な目で見たが、彼はそんなものに構わず、ガッツポーズを決めた。
涙もろい彼だが、不思議と涙は出なかった。今までの出来事が走馬灯のように彼の胸を駆け巡り、目を潤ませたが、涙がこぼれるほどは出なかった。涙に打ち震えるよりも、歓喜があまりにも勝っていた。全てが報われた。これから初めての社会進出となるが、その不安でさえ歓喜へと替わっていった。
「そうそう、デザイン社なんだって。その中の映像部署みたいなとこだよ」
「あら...学校でも習ったこと無い事なのに大丈夫なの?」
ボロアパートの階段では、陽気な会話が繰り広げられていた。アルディは、就職を勝ちとったことを、誰に一番に報告しようか迷ったが、まずは、歩きながらでも、携帯魔導話で話をできるお母さんに報告をしていた。
学院に入学する事になってから、また彼が一人暮らしを始めるころから、ずっと心配をしてくれたお母さん。息子が苦労の末、仕事を決めたとなれば、その内心は、嬉しくて嬉しくてしょうがなく、話してる途中でも泣き出してしまいそうであったが、ぐっとこらえ、息子が万事上手く事を進められるように、話をコントロールしていた。
「大丈夫だよ、魔導映像は、かなり作ったことあるし、芸術系もいいなぁ~って、思うし」
「う~ん、よくわかんないけど......。まぁ、やってみなさい。でも、本当によかったよねぇ~」
アルディはその言葉に目を潤ませた。母からの祝福がとてつもなく嬉しかった。ここまで来れたのも、お母さんのあらゆる配慮のおかげである。お父さんは、最後の最後までアルディが中央魔術専門学院に行く事に反対をしていた。そこを、アルディの好きにやらせてみたら、となだめてくれたのは、他でもない、お母さんなのだ。
その後、就職活動にいたっては、心配ゆえに、職種を選んではいられないよ、と厳しい事を言いつつも、ずっと応援と様々な支援をしてくれたのは、お母さんだ。そのお母さんから祝福されたのはこの上ない喜びであった。
「ありがとう、ありがとう、明日、さっそく出社だから、行ったらまた連絡するよ」
「はいはい、頑張ってね」
携帯魔導話から出てきていたお母さんの映像はすぅっと消えていった。