最終章 この時のために - Magic Recruit

 パッ

 突如、三人のいる部屋が闇に染まった。

 思わぬ出来事に、社長と釣り目は、あたりを見渡してしまった。

 (照明が壊れた...?)とつい考えた二人だが、そもそもこの"白い部屋"に照明などない。光を使った部屋であれば、全面を真っ白にすることはできない。魔導によって、作られた特殊な部屋である。よって、照明が壊れて暗くなるなど、この部屋においてはありえないことだ。であるならば、考えられる事は一つ...。

 三人の目の前の空間が突如、ブブブっと音を立てて"ブレた"と、すぐ様そのブレは白い文字となった。

 『Life』

 文字は視認できるギリギリの時間でまたブレて消えた。これは作品のタイトル...。そう、アルディの作り上げた映像が始まったのだ。

 突如、一粒のしずくのような物が上から落ちてきた。しずくが地面に落ちたと思うと、そこから波紋が広がる。と同時にストリングス系楽器の緩やかな音楽が流れ始めた。

 今度は波紋が起きた場所から、蔓のような植物が生えてくる。その植物は無数に生えて、天高く伸びていく。視点は、その無数の植物の間を分け入っていくように奥へと進む。

 社長と釣り目は、不覚にもその光景に見入ってしまった。

 これまで、採用試験のみならず、あらゆる場面で映像を見てきた彼らは、どのような映像を見ても大した感動を感じなくなってきてしまった。自分の作品に使える部分や、あら探しをしたりと、どこか商業的に見ることしかできなくなっていたのである。

 しかし、アルディの映像を見た彼らは、確かな感動を覚えていた。

 視点は分け入った奥にある、一本の蔓へと勢いよく向かっていく。ぶつかる! と思いきや、いつの間にか、何本にも枝分かれした細い道のような中を駆け進んでいく場面に移った。蔓の中であろうか。

 今度は、赤い光が急に飛び込んできた。我が星ガイアの中心。マグマがたぎる、灼熱の世界。その真っ只中に視点は突っ込んでいく。

 釣り目と社長は息を飲んで映像に見入った。経験豊富な彼らにさえ、次の展開が読めなくなっていた。

 マグマの先は、急に暗闇となった。否、完全な暗闇ではない。遠くには光り輝く点が無数にある。

 視点は変わっていき、光り輝く巨大な球体が視界に入ってきた。

(ガイア...)

 社長と釣り目は直覚した。その球体が、我らが住んでいる"星"だということを。

 現在は、世界中で天文学の発展は著しく、占星術師にして、天文学者の、ランディ・フォルストが提唱する、"地動説"が定説となっている。星は、球体であり、宇宙という広大な空間の中で、太陽の周りを周っているという事実は、一般常識となっている。まだ人類は宇宙空間へ飛び出したことはないが、十何年か前、魔道師による、千里念写によって、宇宙の様子が公開された。それによって宇宙から見た我が星の姿は、世界中の人間が知ることとなる。釣り目と社長も例外ではない。その"写真"が妙に強烈な印象で残っていたため、すぐにその球体の正体がわかったのだ。(現在では、高等学院以上の学校で、いくつかの教科の教科書に写真は掲載されている)

 視界からガイアが外れ、宇宙空間へと移る。

 と、次に視界に現れたのは、幾人もの"人"否、人の形をした"何か"であろうか。

 その人々は全員一様に布を巻いただけのような、一昔前の文明の人々を彷彿させる格好をしていた。

 一人一人に多種多様な個性が見られた。楽器を持つ者、剣や盾を持つ者、髪が長い者、短い者、笑みを浮かべる者、怒りの表情の者、様々な人がいるが、一様に光り輝き、動くたびに光がちらついている。

 その人々の姿を見た者は誰しも、十中八九あるものを連想するであろう。

 それは"神々"だ、と。

 宗教映像と言ってしまえばそれまでかもしれない。しかし、この画には、上から目線や、大上段に構えるようなものは全く感じられない。ましてや、宗教以前の、人間が本来知っているような光景、とさえ感じる。

 その神々の中でも、一際目立つ者がいた。神々の中の真ん中に佇んでいる。

 それは世にも美しい女性であった。

 その場の神々の中で、女性の神は半数ほどであったが、その中でも群を抜いて美しい。否、神々しい。体中に宝石でもついているのかのように光がちらちらと揺れる。全宇宙の宝を集めたとしても、その女性の美しさ、神々しさには到底敵わないだろう。

 視点は、やや引き気味で、女性を捉え続けている。

 女神はにわかに両腕を広げた。すると、いくつもの花が開いた。視界は一瞬、花で埋め尽くされた。次々と花が咲き乱れていく。埋め尽くした一瞬以降も、次々と花は咲いている。

 社長と釣り目はついに面食らってしまった。彼らは花の事はあまり詳しくなかったが、その花の名は知っていた。"レンゲの花"......。その花の生態の性質から、生命の不思議さを表現する時によく用いられる花だ。

 神々は舞を踊り始めた。花はなお咲き続け、まるで神々と共に舞をしているようだ。

 突如、女性の額が光始め、その光は、視界を覆いつくした。

 映像はそこで終わった。

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