第三章 賢者の石 - Magic Recruit

 アルディはやっとの思いで、階段を降り切った。五階から一気に降りたせいか、かなり息があがっている。さぁ、行くぞ、と気合をいれアパートから出ると急に雨が降り出した。アパートの玄関から外に出かけていたアルディは驚きのあまり大げさに飛び退いた。

「どわ!? なんだよ! さっきまで快晴だったのに~~!?」

 まさに晴天の霹靂である。

「あぁ~~、どうしよ、どうしよ!」

 一瞬、魔法で天候を変えようか迷ったが、そんな大魔術をしている時間はない。なにより、試験のために魔力を温存しておきたい。彼はしかたなく、傘を取りに戻ることにした。

 あぁーもう! とか、こんのくそ! など喚きちらしながら、階段を一気に昇り、自分の部屋に入るや否や、ものすごい形相で傘を探し出した。と、机の上にある、ある物に目がとまった。

「......」

 一瞬思考が止まる。

「あぁ~~~~~~!!!」

 それが何かを思い出すと、驚いたやら、安心したやら、よくわからない気持ちで、机に駆け寄るアルディ。

「んな、な、まさかエリクサー忘れてるなんて!」

 彼はサッとエリクサー入りの小瓶を手に取りカバンに押し込めた。彼は何かに気づいたか、窓の外を眺めた。空はすっかり晴れている。先ほどの豪雨はスコールだったのだろうか...。彼は一瞬、先ほどまでのことを思い返した。

「雨が降らなきゃ、エリクサー忘れてる事気付かなかったな...」

 彼はお得意の楽観主義で雨に意味を持たせた。一見腹立たしいことでも、意味を持たせることによって、いつまでもイライラしないものだ。

「って、ボーっとしてる場合じゃない!!」

 彼はサッと身を翻し、ドアにダッシュした。しかし、ドアの前で止まり、部屋の中を振り返った。いつもヒューっと寄ってくるシャントがいないことに気付いてのことだった。振り返った目の先にいるシャントは、ビンの中で、疲れきったように、ぐっすりと寝ている。

「まったく、のん気なやつ」

 彼はため息をつくも、さほど気にする事なく、シャントに手を振り、猛スピードで部屋を出て行った。

ページトップへ戻る