Illust & Music 月の高いところ

第二章 心 - Magic Recruit

 街は、夕日で赤く染まっている。マーリアルの街は素朴といえど、色鮮やかな建物が多く、形もへんてこりんなものが多数ある。そんな色とりどりの街も一日のこの時間帯だけは全てが赤く染まる。人々が家路を急ぐ時間でもある。というのも、魔法の効果というのは、朝と夜に力を多く発揮するもので、魔法産業を中心としたこの街は夕方には帰宅する者がほとんどなのだ。

 ローブを身にまとった男、女がちらほら見え、夕日で黒い影が伸びる。まるで、この街が一つのミニチュアという錯覚に襲われてしまいそうだ。

 夕方以降は、今度は道具屋の柿入れ時だ。朝から昼間までに消費した魔道具や材料を調達しに、道具屋を転々とする人々。「あそこはクラフトが安いんだけど、店員がね...」なんて、買い物客の声もちらほら聞こえる。

 そんな商店街の一角に、一本の背の高い蔓(のような植物)があった。ジャックと豆の木の童話を彷彿させる蔓だ。街路樹にしては、建物の並びにあるのはおかしな話。見上げて先っちょを見れば、その正体が明らかになる。蔓の上になんと店が乗っかっているのだ。一見とてつもなく不安定に見えるが、蔓が頑丈なのか、落ちることはないようだ。

 アルディはその蔓をよじ登っていた。

「まったく、なんで、毎回毎回...、こんなの、登らなきゃ、いけないんだ!」

 まったくもっての感想である。この蔓の上のお店は魔道具屋で、街の中でも一、二を争う品質の商品を置いている。しかし、店長がまた風変わりで、"何か"の上に店が建ってないと気が済まないそうな。毎月、その"何か"が変わるもんだから、客は困ってしまう。

 しかし、この店の品はとにかく質がよく、客足は減ることはない。店長が風変わりで面白いというのも人気の一つなのかもしれない。

 やっとのことで蔓を登り切ったアルディは、店の床に空いている穴から中に入った。蔓は店の天井まで伸びている。アルディが店員と目が合うと、店員が苦笑いをした。店員も、店長の趣向にはあきれているようだ。

 アルディはさっそく、頼まれたハーブセットを探し始めた。ほどなくして、目的のものを見つけたらしく、バスケットに入っているハーブを、バスケットごと取って、レジへ向かおうとした。

 彼はふと、ハーブセットのとなりの商品コーナーにが目に入った。

 そのコーナーは、ビンの中に色々なオブジェクトや何やらが入っている、インテリアコーナーだ。彼は、こうった"小物"好きで、よく、そのコーナーに入り浸ったり、衝動買いをしたりしていた(そのたびに置く場所がないため、物置にしまわれるのだが)。

 いつもは楽しく、そのコーナーを見て楽しむのだが、今日は違った。

 その商品の中に一つだけ、"生き物"が入っているビンがあった。

 "妖精"である。

 体は、丸みを帯びて小さく、顔は半月形で、口は無い。異様に目が円くて大きく、周りをキョロキョロ見ている。アルディはそれを見て不快になった。

 (インテリアに妖精を使うなんてありえねぇ!)アルディはそう強く思った。

 妖精は不老不死である。どこから現れ、どこに行き、死に、生まれるか、現在の魔法学でも全く解明できていない。

 確かに不死であり、見た目はかわいいが、こうして生きている者をインテリアや道具に使うのがアルディには許せなかった。生きているのならば、自由であるべきだ。そんな想いが彼の頭をよぎった。

 アルディはちょいちょい、と手を動かし、店員を呼んだ。

「これ、どこの商品なの?」

 尋ねられた店員は、ちょっとお待ち下さいと言い一旦レジに戻り、なにやら大きなリストブックのようなものを眺めたあと、アルディの元に戻ってきた。しばらく妖精入りのビンを眺めて裏側を見たりした。

「えーと、魔導社ドルディアというところですね」

「げ......」

 アルディはその名を聞いてゾッとした。なんと、彼が先ほど試験を受けた社の名だったのだ。落ちてよかったな、など勝手に自解した。こんな商品作るところに入らなくてよかった、と。落ちた原因は自分だというのに、なんて都合のいいことだろう。

 しかし、楽観主義も大事かもしれない。自分が悪い、と悶々と嘆くよりは幾分もマシであろう。次の一歩を踏みだせるからである。

「これ、おいくらですか?」

 アルディが聞くと、店員はまたもビンをながめて言った。

「八千メルですね」

(高い......)

 八千メルと言えば、中堅ブランドの靴くらいの値段だ。インテリア小物としては少し高い。

 アルディはしばらくビンをじぃーっと見て考えるように黙り込んだ。妖精は、その表情に驚いたか、ビクッと体をこわばらせている。彼は、財布の中身を見たり、じぃーっとビンを見たりを何回か繰り返すと、あっけらかんと口を開いた。

「これ、ください」

 店員はあわてて「は、はい、ありがとうございます」と言った。アルディの突然の発言に戸惑いを隠せない。

 二人はレジに着くと、清算を済ませた。アルディはそれが終わると、さっさと蔓をつたって店を出て行った。

 日はすっかり落ちていた。薄暗い街並みの中、街頭がやわらかな光で家々を照らしていた。

 "幻光虫"という、光を放つ虫があちこちでダンスを踊っている。街は静まりかえっているが、ひっそりとはしていない。むしろ昼間とはまた違った賑わいがある。昼は色とりどりの建物。夜は様々な光が人々の目を楽しませるのだ。

 その中で、足早に街を横切る光が一つ。

 アルディは、早足で建物を避けながら、ある方向に向かっていた。脇にはあのビンが抱えられている。中の妖精は、まるで見知らぬ世界に来たかのように、目をキョロキョロさせてあたりを見回していた。

 そもそも、彼はなぜ自分の考えに反するビンを買ったのだろうか。彼に思うところがあるというのか。

 彼は巨大な門を抜け、街の外に出た。

 街を抜けると、幻想的な光景が広がっている。

 マーリアルの街は、宙に浮いた小島の上にあり、城壁で周りが囲まれている。四方の門からは橋が伸び、対岸へとつながっている。小島を囲む絶壁は大陸となっていて、そこからは陸続きだ。橋の向こうには森が広がっている。仮にこの街に大軍が押し寄せてこようと、そう安々と街の中に侵入はできまい。周辺の環境が大きく立ちはだかるからだ。

 それにも増して、なんと美しい光景であろうか。昼間に眺めても美しかろうが、夜であろうとも、光る虫達のおかげか、より絶景となっている。

 アルディは、橋の向こうの森の中へと消えていった。