第二話 価値観 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL
バルドスは、引き、荷台まで駆け寄った。
「大丈夫ですかぁ!?」
商人とチョコボ士は、悲鳴をあげ荷台の中に入った。
「でーじょうぶだ、そいつの体は特別製でな、そんなもんじゃ...」
バルドスは、開いていたカーテンから荷台の中に目を見やると、そこには、散らばった商品とその中に埋もれるカール、カールの安否よりも、商品の損傷を疑う商人の姿があった。
「......。」
バルドスと商人二人が目があうと、気まずい空気が流れる。
商人二人は、苦笑いを浮かべ、そそくさと、荷台から降り、チョコボ車の後ろに隠れてしまった。
「おーい、一応聞くが大丈夫か? 毒とか食らってねーか?」
バルドスは、商人らの人でなしに、心底怒り心頭であったが、目の前の事に集中する、と切り替えた。
「大丈夫もクソもねーよ。ち、なんて様だ...。」
カールは、そう言うも、先ほどの打撃が何事もなかったように、体にまとわりつく商品らを払いながら、上体を起こした。
「...てめーも一撃入れてわかったと思うが、物理攻撃じゃ埒があかねぇ。やってる間に、第一次大戦が終わっちまうぜ。」
第一次大戦とは、第一次暗晶戦争のことである。闇のクリスタルの利権を巡って行われた、世界大戦のことである。凄惨さを極め、何より、戦乱は三十年の永きに亘った。
「まして、今のも運が悪けりゃ、さしものおめーでも、毒食らって死んでたぞ。」
「ふん、死ねるもんなら死んでみたいね...。」
カールは、遠い目をして言った。それは、ただ死なないとの決意というには程遠く、人には解せない悲哀のようなものがこもる一言であった。
「しかし、時間がかかるのはいただけない。かといって、俺もおまえも、魔法アビリティは、弱いもんしか使えねぇ...。ん?」
と、カールはあるものに見やった。商人たちのこれから売る商品の一つだ。
「へ、いいもんがあるじゃぁねーかよ...!」
オチューはその間も触手をブン回し続けている。そして、その歩をチョコボ車へと向けていた。幸いにも彼奴の足は遅く、カールらのやり取りの間でも到達することは叶っていなかったが、着実にその距離を縮め、触手の攻撃範囲には到達せんとしていた。
「やばい、やばい、やばい、こんままじゃ、商品が、社長に殺される...!」
この後に及んで商人らは、自身の命より、商品の心配を、目の前の怪物より上司の雷を恐れていた。仕事人としての精神といえば聞こえはいいが、それも命あってのことである。愚かしいことこの上ない。
「おーい、おたくらよ」
「!?」
カールは突如、荷台の後ろからひょっこり顔を出し、チョコボ車の後ろで震える商人らに話しかけた。
「悪いが、おたくらの商品、使わせてもらうぜ。」
「へ?」
カールの言葉を、商人らが理解するには一瞬の時間を要した。しかし、それを解した時にはすでに、カールとバルドスは行動を開始していた。
「え、あ、ちょっと待った、あんたら、商品って、え!? やめてくれ、社長に怒られちまう!」
「はん、ものはいくらでもあんだろ、命は一つだぜ!」
カールは反対する商人らに吐き捨てた。
オチューはその触手で、荷車ごと破壊せんと、もうそこまで迫っていた。傭兵二人は、オレンジ色の、モンスターの右腕のようなものを手に取り、オチューに投げつけた。
カッ! ドゴォオォォオォオォォォン!!!!!
強烈な爆発音と共に、あたりをとてつもない炎が覆った。
燃え盛る炎の中でオチューは悲鳴をあげながら、暴れまわる。間一髪、あと一、二メートルのところで、チョコボ車は、緑のムチによって粉微塵になるところであった。
「キュラララァッ...! ギュラァッ...!」
ドッ! ズゥゥゥウゥゥン......!
オチューは、炎の中、悲痛にもがき続けたが、一分もしないうちに沈黙し、その巨体を、地面に伏した。伏した直後、その体からは、炎とは別の光、否、光の玉があたりに飛散した。一般的に、幻光虫と呼ばれるそれは、生物の死後、その体から現れる虫のようなもので、未だにその正体は明らかになっていない。他にも生死が繰り返される地などに多く存在する。その性質から研究者達は、死を迎え肉体を留める魂が無くなった時、肉体がバイトそのものとなり飛散する、その時解放されるエネルギーが、光となって現れている、と仮説を立てている。
オチューの体は幻光虫となり、消えていった。燃料を失った火はやがて下火となり、わずかなものとなっていった。
「ひゅー...! はんぱねぇ威力だのう、シャントット先生もいらねんじゃぁねぇのかね?これじゃ。」
バルドスは、感嘆の口笛を吹き、言った。
シャントットとは、魔法大国ウィンダスに伝わる伝説の魔導師の名である。
「あほたれ、大先生は自身の気高い力を使っておられる。こっちは金の力を使ってる。金がかからないのは、とても大事だぜ。」
確かに、タダでこれだけの魔法が使えたら、強力であろう。
「そ、その通りだ、あんたら、ボムの右腕がどれだけすると思ってるんだ!五千だ、五千ギルで売ってるんだぞ!しかもそれを二つも!」
商人はまくしたてるように言った。五千ギルと言えば、割と高めのブーツが買える値段である。
「あん?」
カールは、カチンときたのか、商人とチョコボ士ににらみつけながら、にじりより、吐いた。
「てめーら、その一万ギルで、てめーの命と他の商品も買えたんだ、安いもんじゃねーか。そのうさぎのしっぽとやらを使ってなかったら、俺らは皆、今頃異界で金を数えていただろうよ。」
商人は、そのカールの厳しくも真を突いた言葉に、うつむき、何も返さなくなった。
「まぁ、カール、その辺にしとけよ、俺らが戦いのプロで、そこにこだわりがあるように、こいつらも商品を扱うプロだ。そう考えるなら気持ちはわからんでもないだろうよ。」
「ふん。」
カールは、なだめるバルドスと、商人たちを尻目に、荷台の中へと入っていった。毛ほども納得はいってない様子だ。
気まずそうに、その場を動けないでいる商人達にバルドスは呵々大笑して言い放った。
「まぁ、気にするな!俺らの仕事は、あんたらを護ること、あんたらの仕事は、商品を無事届けることだからなぁ、これ以上減らせさせはしねーよ。ガハハハ!」
商人達はバルドスの豪快な笑いっぷりに、少々引き気味に苦笑したが、その屈託のない人柄に少しだけ心が安らいだようであった。
日が落ちかけていたのもあり、彼らは、そこで一夜を明かすことに決めた。
傭兵二人が、ポーキーを狩りに行こうとすると、商人の三人は、頭を付き合わせて、二人はチョコボ番と野宿の準備、一人は、傭兵達を手伝うことを決め、その旨を話してきた。しばらくお互い険悪なムードが流れるかと思いきや、商人達の殊勝ぶりに、カールも少し気を許したようだ。
狩りを終えた頃には、商人特製のスープが出来上がっており、ポーキーの丸焼きと、バッカスの酒を加えた夜食。その団欒は思いの外、楽しいものとなり、四人の語らいは、星きらめく夜空に、いつまでも響きわたっていた。