第二話 価値観 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL

 時は戻り昼間、ガンズルムの首都ダインダルム郊外。

「よう、賭けをしねーか、カール。」

 森の中を走る街道に、一つの荷チョコボ車がゆっくりと走っていた。二人のチョコボ士と、引手が一人。商人であろう。そのカーテンで覆われた荷台の中に二人の男が荷物とともに佇んでいる。一人は、大柄のヒューム。顔にはたっぷりと無精髭を蓄えており、おおよそ女にはモテそうもない。傍に、巨大な剣を置いている。もう一人は、ヒュームの若い青年で、顔立ちはやや美形か、神は茶色で、多少なり手入れをしているようだ。ノースリーブの服を着ており、こちらは女にはモテそうだ。腰に、広刃のショートソードをかけている。二人とも、武器を持っているところから、戦士なのであろうか。話しかけたのは、大柄の男だ。

「おいおい、バルドス、俺に賭けで勝ったことことあっかよ。」

 カールは、皮肉たっぷりにけしかけた。

「あん、次は勝つに決まってら。」

 負けじとバルドスは腕組みをしながらふんぞり返った。どうやら彼らは旧知の仲のようだ。

「近々、ウィンダスとガンズルムが戦争になるって噂を聞いたんでぃ。問題はどっちから仕掛けるかなんだがよ。」

 カールは、やれやれとばかりに肩をすくめて応えた。

「おいおい、それ賭けになるのかよ、国勢が安定してるガンズルムに攻める理由もねーしよ。」

「ほー、じゃお前は、ウィンダスから攻めるってーのな。」

「さぁねぇ、だいたい、戦争になんのかよ」

「あー、もうつまんねーな。早くモンスターでもでないもんかね。」

 カールの素っ気ない反応にかかんに言葉を返していたバルドスは、急に会話の流れを断ち切った。おそらく彼にとっては、会話の内容などどうでもよかったのだろう。単に、移動中の荷車内の無言に耐えられなかったからだったのだろう。現に、世界の政治情勢など、はなから彼の興味の範疇ではなかったのだ。

 その恐ろしい発言に、チョコボ士は身をすくめた。

「めったなこと言わんといてくださいよ!ここで出られたらひとたまりもないんですよ。」

 力を持たぬ彼らにとっては、移動中にモンスターがでてくることほど、恐ろしいことはない。商売が中断されるばかりか、自身の命も危ういからだ。

「馬鹿野郎!だから大層な額出して、俺らを雇ってんだろが!おかげで、こちとら一週間おままんま食い下げだ、種無しヤロー!」

 チョコボ士は、何かぶつくさ文句を言って、その後は、後ろを向くことはなかった。

「おい、バルドス、額に文句あんのは俺も一緒だけどな、それでこのチンケな仕事もおじゃんになるなら、てめーをひき肉にして食っちまうぞ。」

「はん、俺なんて食ったって、おめーの貧弱な腹なら一発で便器とお友達になろうよ。」

「ち、めんどくせーな...。」

 カールは埒があかないと、会話を中断した。彼らはどうやら、商人に雇われた、傭兵のようだ。永遠の闇がいないこのご時世、闇のモンスターは出なくなった。だがその代わりに光のモンスターが台頭してくるようになっていた。ましてや、世界的な経済不況は、多くの野党、山賊集団を生むにいたった。つまり、あらゆる脅威から、人を護る傭兵家業は、一種のホットワークとなっていたのである。

 しばらくチョコボ車はなんの気無しに森の街道を進んでいた。

 と、視界に急に、緑の塊が目に入り、チョコボ士は思わず、車を急停止した。緑のかたまりはかなり大きく、巨大な植物のようであった。下の方にははピンク色の不気味な花びらを携え、四方に触手と思われものを、周りの木々に絡ませていた。

「あれ...、この街道にこんなものあったかな...。」

 チョコボ士の一人が、チョコボから降り、その植物に近づいた。

「なぁ、こんなものなかったよなぁ。」

 チョコボ士は、下で手綱を引いていたもう一人の商人に話しかけたが、商人、もう一人のチョコボ士は驚愕の色を浮かべ、みるみる顔を青ざめさせた。異変に気づいたチョコボ士が、植物の方を振り返ると、そこには、植物にぽっかりと穴が、チョコボ士を向いていた。何十本もの牙を携えて...。

「んぎゃぁああああ!!!!」

 突如、チョコボ士二人と、商人が悲鳴を上げた。それにすぐ様反応した傭兵二人は、素早い身のこなしで、荷台から降りた。

「お、やっと、暇解消か?」

「ぬかせ、仕事だろ...。」

 荷台の傍から降りた、二人はチョコボのいる前方へと駆けつけると、おぞましい光景が広がっていた。巨大な花植物が、異様に大きく、尖った牙をギラつかせた口からよだれを垂らし、触手で、チョコボ士を捉えていた。

「ああぁ、傭兵さん頼む、頼む、早く、相棒を助けてくれ、とういかあの化けもんなんとかしてけれ!」

 もう一人のチョコボ士と、商人は悲痛に口々に戦士たちに訴えた。

「こいつは、オチュー...!」

 カールは、その怪物を知っていた。

 オチュー。植物系のモンスターで、その巨体と触手から繰り出す、強力な物理攻撃の他、毒や混乱の効果を持つ息を吐く、中ランク以上の強さを誇るモンスターである。

「ち、やっかいなもんが出てきたなー、どうするよ、不死身隊長?」

「...その名で呼ぶなっつの。」

 カールは、"呼び名"にムッとしたか、一瞬表情を歪めた。

「知れたこと、まずはチョコボ士を助ける!」

 言うや否や、カールは怪物に向かい駆け出した。

「やれやれ相変わらず甘いね...。」

 そう言い、肩をすくめつつも、バルドスも続く。

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