第三章 - 赤い星

 島が軽い溜め息を漏らすとボソっと呟く。

「奥さんがいる人達は羨ましいや。おっと、大山さんはね、ちょっと違うけどね。」

 と言って小指を立て、これっ、と言いながら窓の外を見た。彩子も何気なく島の見る方向に視線をやると、外を歩いていた大山さんの横を車が止まり、運転席にはサングラスをかけた若い女が乗っていた。

「やるな、大山さんも。」

 島は小さい声で囁いた。彩子も、あ、そうかと思いながら窓の外をぼんやり眺めていると、島が唐突に言い出した。

「今日はもう、店仕舞いをするから、すまないね。サークルのメンバーの応募は、彩子さん一人だけだと思うから。なかなかね、歴史に興味を持つ人なんていないしね。でも、こうでもしないとお客さんが来ないんだよ。」

 彩子も納得したような気分でいた。コーヒー代を支払う時、島が言う。

「明日、都合が良かったら晩の六時にススキノの"K&M"に来てくれませんか。うちの娘がちょっとしたショーをやるんでね。」

 彩子は島からチケットを渡された。

「ショーといいますと、歌でも唄うんですか?」

「まあ、来てみれば分かりますから。御主人を誘ってもかまいませんよ、お二人でどうぞ。」

 彩子は手渡されたチケットを眺めながら帰りの地下鉄に乗っていた。チケットには、何やら訳の分からない英字で書かれていて、さっぱり何の催し物なのか分からない。ススキノの「K&M」なんて、何だろう。島さんて、とても謎めいているよなぁ......。変な所だったら嫌だよなぁ。桐子という金髪頭の娘がやるショー、いったい何だろう。夫はきっと行かない、と言うだろうなぁ、と彩子は思った。

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