第一話 潜入 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL

 例のものはどうやら、"一階"にはないようで、一同はミスラの女性が見つけた地下への階段を降って行った。地下室狭い階段を降りると、そこには、鉄でできた観音開きの頑丈そうな扉がある。ミスラの女性と、ウィーネは、慎重にトラップがないか探る。ないのを確認でき、隊長とガルカの青年が扉を押すと、何の気もなしにその扉は開いた。

 部屋の中を見るや、四人は息を飲んだ。

 その部屋に広がっていたのは、近代的な機械施設と、いくつもの鉄の筒。筒から伸びる鉄のホース。そしてその覗き窓から見えたのは、人間、であった。

「うそ...。」

 ウィーネは驚愕の声をあげた。その場で何がなされているのか、何を目的としている施設なのかはわからない。ただ一つ明らかなのは、人間が、何かの実験材料とされている、ということだけであった。その事実に、隊長を除く三人は驚愕した。

「これがウィンダスの実状だ。スフィアにしっかり収めとけ。」

 スフィアとは、このガイアのエネルギー単位である、バイトを記録するものである。様々なタイプがあるが、写真を残すものや、音、はたまた映像を残すものまである。

 隊長、ミスラ、ガルカは、その施設の様子を四十にスフィアを掲げ、記録していった。

「さて、例のものは...。」

「隊長。」

 ウィーネが隊長を呼んだ。どうやら例のものを見つけたようだ。

「これが?」

「魔力的にも、バイト的にも間違いありません。」

 隊長の問に対し、ウィーネが答えた。例のものは、黒っぽい、球体の水晶のようなもので、大きさは、手の平を広げたより少し大きいくらいだ。始終色が変化しており、水晶の中はストリームのようにうねった流れがあるように見える。台座に乗ったそれは、じっと見ていると、吸い込まれそうな、そんな不思議な力を帯びているようだった。

「罠はあるか?」

 隊長が聞くとウィーネは首を振って、魔導の罠はありません、と答えた。

「よし、ティミット。」

 隊長が、幼声に向って言った。

「あいニャ♡」

 ティミットと呼ばれた、ミスラは、身をくねらせて答えた。

「...頼む。」

 隊長がすこし少々あきれたような表情で言った。

 ティミットは、アイサー!、と答えると、台座の周りをあれこれ調べ始めた。その手つきは盗賊のように素早く、そして正確だった。ティミットは、罠がないのがわかったのか、三人の方を向いて軽くうなずいた。三人もうなずくと、ティミットはその球体と同じくらいの大きさの白い球体を手にし、台座の黒い球体と、手に持つ白い球体を、素早く入れ替えた。

「.........。」

 四人はしばらく無言で微動だにしなかった。永遠に似た僅かな時間が流れる。

「なんも鳴らなかったニャ。」

 沈黙を破るように、ティミットはあっけらかんと、微笑を浮かべ言った。

「縁起悪いこと言うな!」

 太声がすかさずつっこむ。

 ティミットは、球体を隊長に渡した。隊長は、球体を受け取ると、球体を片手に持ち、注意深く観察した。

「これがダークスフィアか。」

 改めて近くで見ると、気がめいりそうな色と、力を感じるようだった。まるで命までも吸い取られそうな...。そんな雰囲気だ。隊長は、ダークスフィアを皮製の巾着袋のようなものにしまいこみ、その口を軽く閉めた。すると、その巾着袋は急に縮みだし、ついには、手のひらに小さく収まるくらいの大きさになってしまった。

「よし、用は済んだし、後は帰るだけだ。手早く行くぞ。」

「はっ。」

「ニャー。」

「はい。」

 隊長が催促すると、三人はそれぞれの性格がでているような返事を返した。

「それと、ウィーネ。」

「?」

 隊長が呼ぶとウィーネはそちらに首を傾け、隊長に近づいていった。

「スフィアと、こいつを持ってけ。」

 そう言うと隊長は、ウィーネにダークスフィアの入った巾着袋と、小さい石のような物を手渡した。石は巾着袋と同じくらいの大きさで(同じ大きさといっても、小さくなった状態の大きさだが)淡い緑色をしていた。表面に溝と文字がびっしり彫られているが、その文字は肉眼では確認できないほど小さかった。

「わ、私がスフィアを持つんですか?」

 ウィーネが驚いた様子で言った。不満、というわけではないが、なぜ自分が持つことになるのかいささか疑問に思っている様子だ。

「わかっているだろ、万が一捕まったとき、おまえが一番動きやすい。」

「でも、逃げ足はティミットの方が...。」

 ウィーネが逃げるように言った。名指しされたティミットは、逃げ足言うな!、とがなった。

「これを使えるのは、俺らの中じゃおまえしかいない。」

 隊長が、淡い緑の石を指差し言った。隊長に確かな理由を聞かされたウィーネは、少し考え、わかりました、と答えた。

 四人は、お互いの状況を把握しきったと思うと、出口に向って歩き出した。任務は終わったはずだが、その顔にはまだ緊張感が残っていた。後数歩で出口という所まで差し掛かったその時

 ビーーッビーーッ!

「!」

 急に警報のような音が鳴り出した。警報の音はけたたましく鳴り続き、止まる気配は微塵も無い。四人はあまりにもの驚きで、一瞬体が硬直したような状態になった。何秒かの間、一人も動けるものはいなかった。

「出口に走れ!」

 隊長の一言が、その場の全員の硬直を解いた。四人は、何かから逃げるように、出口に向って走りだした。

「ちっ、気色悪い警報機だぜ...!」

 隊長が走りながら、倉庫の天井に張り付いている虫のようなものを見ながら言った。どうやら、その虫のようなものが警報機であって、このけたたましい音を出しているようだった。

 一階へ上がり、あと少しで出口、と思うと、急に外に銀の鉄板のようなものが無数に並んでいるのが見えた。よく見ると、それは鉄板ではなく、鎧を着た人間であることがわかった。大勢の兵士が外で待ち構えていたのだ。

 「くっ!」 「やばいニャこれ・・・!」隊長とティミットが悲痛の声を挙げた。

 と、後ろから物音がした。四人が振り返ると、倉庫の裏出口からも、大勢の兵士が入ってきていた。その中に一人だけ、兵士ではなく役人のような格好の者がいた。その役人は、他の兵士と違い、鎧を身にまとっていなく、顔が出るローブのようなものを着込んでいた。顔は毛むくじゃらで、顔の判別がつきずらく、少し顔が前に突き出ている。目は大きいが、毛が多いため、半月形の部分しか見えない。頭に大量のまぶしいばかりのアクセサリーを付けており、まさに上級貴族の風格を備えていた。この毛むくじゃらの人間は"アルエルタ族"と言い、ウィンダスに多くいる種族だ。魔法を得意とし、魔法でこの種族の右に出るものはいない。

「おやぁ、こんなところで火遊びですか?」

 役人のような男が言った。その声は、人をあざけ笑うような、そんな響きで、聞いているだけも、はらわたが煮えくりかえるような、そんな神経を逆なでするような声だ。

「潜んでたか...。」

 隊長が悲痛を隠しきれていない声で言った。

「そんなめんどうなことしませんよ。テレポって魔法、ご存知ないのですか?」

 役人が答えた。やれやれといった表情と、両手を肩まであげたポーズをしている。皮肉を言われると、その口調の効果は倍増したように思えた。

「さて、私がこの言語を話している時点で、あなた方の正体はばれている、ということを理解していただきたい。」

 役人が、四人を睨み付けながら言った。この世界、"ガイア"には、大小さまざまな国が存在するが、極めて大きく、栄華を極めている国が四つある。その国々では、その国特有の言語があり、その国々の人口の八十%近くが、自国の言語を話している。役人が言いたいのは、おまえらがどこから来たのか解っている、ということなのだろう。

「...。」

 三人は多少驚いているようだが、隊長は驚いている様子はない。役人は面白くないとでも言っているように、眉間にしわをよせ、首をかしげた。

「なにを盗ったか存じませんが、返していただければ、お命だけはお助けいたしましょう。」

 役人が不適な笑みを浮かべた。まるで、四人が何を盗んだのかはっきりわかっていいるかの様子だった。否、実際には気付いているのだろう。

「俺たちが何者か知っているなら...、意地の悪さも知っているはずだぜ!」

 隊長が叫ぶと、隊長を含めた三人が、役人側の兵士に駆け込んでいった。ウィーネは、隊長に押され、その反対側、出入り口の方に飛ばされた。押されてバランスを崩しかけたが、すぐに体勢を立て直し、出入り口に駈けていった。と、兵士達が倉庫の出口から、なだれ込んできて、ウィーネにむかって剣を振りかざしている。ウィーネは、兵士に向かい、手を向け、何事か詠唱を唱える。詠唱が終わるや否や

「逃がしませんよ!」

 役人が、前方に宙に浮いていた!役人は、皮肉な笑みを浮かべ、ウィーネに向かって手をかざし、ウィーネのように詠唱を始めた。ものの二、三秒で詠唱が止まり、魔法が完成したのか、役人が魔法の名前を告げようとしたその時。

 キィ――――ン!バキバキ!ババババ!

 ものすごい轟音とともに、兵士の後ろになにか激しく動く巨大な物体が現れたと思うと、その何かが、倉庫の壁をぶち壊しながら入ってきた。ものすごい土煙で視界は遮られ、出入り口付近は、壮絶な状態となった。兵士の、叫び声が、掛け声が、辺りを騒然とさせる。煙の中、ウィーネは、その物体に近づき、コクピットと思われる部分に、素早く飛び乗った。どうやら、それは小型の飛空艇のようで、動力は魔導の"エンジン"によるもで、舟艇の後部に、ノズルのようなものが取り付けてある。

 ウィーネが飛び乗ったと思うと、そのノズルから、緑色の激しい炎のようなものが噴出し、いきなりスピードを上げ、出入り口を強引に出たと思うと、急に空高く飛び上がった。兵士たちは、その様子を呆然と見上げていた。

「む、無駄だと解っているはずなのに・・・。」

 役人が、天を仰ぎ、空の彼方に消えていく飛空艇を見ながら言った。その顔にはあえぎながらも、微笑が浮かばれていた。

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