第一話 潜入 - FINAL FANTASY DARK CRYSTAL
第一話 潜入
どこまでも続く砂漠、永遠に続くかと思われる砂漠。しかし、実際には限りがあった。砂漠は地面からぽっかり浮いた、島にあった。
このウィンダスには、一つの大陸と一つの島がある。一つは地面と繋がっているスベーティ大陸、もう一つはこの雲のように浮く浮き島、ロジアンヌ島だ。ウィンダスでは、ロジアンヌ島はほとんど使われていなく、ほぼ倉庫扱いといってよいものであった。
浮き島の上に一つの影がかぶさった。夜の闇に映る(もっとも、この夜の闇も人工的に作られたものだが)その影は、丸い胴体に羽根を付けた、黒い羽ムシを思わせた。
影の正体は一隻の飛空挺だった。プロペラの回転によって風を起こし、浮力を得るタイプで、騒音は意外なほど少ない。
飛空挺から四匹のダチョウのような、鳥のような動物が降り立った。ダチョウのような動物、"チョコボ"は、綺麗に着地し、何かを待つように飛空挺を見上げた。と、飛空挺から四本のロープが降りてきたと思うと、そのロープを伝いながら四人の人間が滑り降りてきた。四人はローブを身にまとい、フードをしてるため、顔は判別できない。四人はそのまま手馴れた動作でチョコボに飛び乗った。
飛空挺は、その動作を見ていたかのように、四人がチョコボに乗ったと同時に、身を翻し、夜の闇へと消えていった。かくいう四人も、それを見届け終わるや否や、身を翻し、四人と四匹は同時に同じ方向に駆けていった。
このチョコボの足は凄まじく速く、さっきまでいた所が、もう既に霞んで見えている。四人はしばらく無言で走り続けたが、一人の男の声が、夜の闇を切り裂くように、沈黙を破った。
「おかしい...。」
わりと細めの声で、声が揺れているが、恐怖によるものではなく、チョコボに乗っているからのようだ。
「どうかしたんですか?隊長。」太くがっしりとした男の声が聞き返した。
「衛兵が一人もいない。」
隊長と呼ばれた男が、周りを伺いながら答えた。
「みんな寝てるんじゃニャいの~?」
夜の闇に揚々とした女の声が響く。まだ幼さが残る声だ。
「バカか、普通は交代してやりくりするだろ!」
太声がすかさずつっこみを入れた。女は、舌をだしケラケラ笑っていて、さほど気にしていない様子だ。
「見えてきたな...。」
隊長がそう言うと、他の三人もそろって前を向き、眼前の風景を見据えた。そこには、まだ遠くにぼんやりと、城のようなものが見えていた。
「隊長、本当にここでよいのですか?」
四人は城のような建物の前で、すでに、チョコボから降りていた。チョコボはすぐに放したのか、既にいなくなっていた。
「あぁ、間違いない。」
太声の問に対し、隊長が答えた。
「なぁ~んか、倉庫じゃなくて、ただの城に見えるにゃ...。」
幼さな声が、皮肉気な言い方で言った。
四人は、ここへ来る前、"倉庫に行って任務を遂行しろ"と命令されていた。しかし、眼前にあるのは明らかに倉庫ではなく城である。そのためか戸惑いがあるのだ。
「俺たちの動きがバレてるかもしれない、手早く済ますぞ。」
隊長がそう言うと、既に城の扉の前にいた二人が、城の扉を押し開こうとしていた。強固そうに見えるその扉は、押すと簡単に開いていき、両開きのその扉はギギィと音を立てて開いていった。
四人は中に入り、ランプを携え火を灯した。四つの光りが辺りを照らし、中の様子が半分ほど照らされる。
「やっぱりただの城ニャ。」
幼な声の女が、頭のフードを脱ぎながら言った。声の通りかなり若い女だが、頭からは猫耳が生え、肌は赤褐色で、ところどころに刺青がある。このガイアの亜人間種族の、ミスラ族の女性のようだ。女の言ったとおり中はただの城のように見える。他の三人もフードを脱ぎ、辺りを見渡した。
「うむむ・・・。」
太声がうなった。
太声の主は、こちらも亜人間の種族のようで、ローブから出ている顔は、犬のような、ゴリラのうな、顔立ちだ。ガルカ族の男性である。
「ウィーネ、頼む。」
隊長が、さっきから一言も喋っていない少女に言った。
隊長は、ほっそりとした顔立ちのヒューム族の青年で、片眼の眼鏡を掛けている。
「はい。」
ウィーネと呼ばれた少女が答えた。
ウィーネはミスラの女性より若いヒューム族、子供と大人の中間くらいの年齢のようだ。髪は跳ねのあるショートヘアで、すこしピンクがかった色をしていた。
ウィーネは答えると、何か小言のように詠唱し、腕を素早く何かの順番のように動かせた。と、なんの前触れもなく一瞬だけ詠唱と腕の動きを止めた。永遠とも思える一瞬が流れる。
「デスペル!」
刹那、ウィーネの叫びとともに、まばゆい閃光が走り、辺り一面を強烈に照らした。と思うと、光りは一瞬で収まり、いきなり回りの空間が裂け、ひび割れていく。ひび割れたと思うと、今度は崩れ落ちていき、周りの空間は完全に砕け落ちていった。ひびがすべて砕け落ち、消えていくと、砕けた空間のなかから現れた光景は、周りに荷物が散乱する、倉庫そのものの姿であった。
「ほう。」
「ほぇ〜...!」
ガルカは感嘆の声、ミスラは驚愕の声を挙げた。
「外見はカモフラージュだったわけだ。」
隊長は微笑を浮かべ、言った。
「さぁ、例のものを探すぞ、手早くな。」
三人がうなずき、みな個々に方向を決め、散り散りなり、"例のもの"を探し始めた。