Illust & Music 月の高いところ

最終章 この時のために - Magic Recruit

 アルディは、突如目が覚めた。なぜかはわからない。ごく自然に覚醒した。そして、寝起きだというのに、すぐ様頭が回転しだしている。

 彼はおもむろに時計を手に取った。時計の数字はアラームが鳴る七分前の時間をを示している。

 はて、不思議なこともあったものだ。とアルディは思った。

 彼は朝が大の苦手である。一度寝てしまうと、音が鳴ろうが、耳に水を入れられようが、自らが自然に覚醒するまでは絶対に起きないのだ。つまりは、時計のアラームなど、あって無いようなものなのである。だから、彼は人より早く寝なければ、社会活動もままならないのだ。

 しかし、昨日はけっして早く寝たわけでもない。寧ろ、今日の準備に手間取り、就寝が遅くなったくらいだ。いったいぜんたいどうしたものか。

 彼は不思議がってみたものの、その原因が皆目検討もつかなかった。

 ただ、今しがた観ていた夢の事が気になった。シャントと、誰か見たことないような女性がでていたような......。

 思い出そうとしようにも、よく思い出せない。彼は夢の事はサラッと流すことにした。よく思い出せないものを、深く思慮してもしかたない。その夢のおかげで、早く起きれたのだと、ラッキーなのだという事にして、さっさと身支度にかかった。

 彼は、少し前の自分と、昨日、今日の自分との違いが見えていなかった。そして、その"違い"こそ、物事を勝利足らしめる要因なのだということも、その時は全く気付かなかったのである。

 そんな彼だが、身支度をしている自分自身に何か変化があるのをなんとなく感じていた。頭の回転が速い。あらゆることに気を配っている自分がいるのだ。

(今日、必要な物は確か、絵の具とマジックパレット、そしてショートロッドだったな。あとアメジストも必要だっけ。おっと、寝癖ついてるな。あ、袖から糸出てる。ちょっとコーヒーを飲むのは止めておこう。俺、トイレ近いし。あぁ、お母さんに今日のこと連絡しておこう。必勝祈願でもしてもらおうじゃないか。何分前に社に着いてればいいかな......)

 彼は今日受ける一社に全てを懸けていた。シャントにあきらめないと言ったものの、この一社をラストと決め、必死の想いで勝ち取るとろうという心に期していたのだ。

 その一念が彼の行動の全てを変えていた。心労に心労を尽くしていたのである。

 彼は今まで、事をなんとなくで進めていた。そのためか確実性が無く、いつもつまらないミスで、周りからの評価を落としていたのだ。

 なるほど、彼には実力があろう。だが、世の人は、一発目の言動で相手を決めてしまう。それは大多数の人間の習性として、仕方の無いことである。こと、社の面接というものは、一発の非常に短期勝負だ。見る側も一発で見極めなければならないのだから、その習性が顕著にでるのはこれまたしょうがない。だから、初回のミスとは大きなロスなのだ。アルディは今まで、その初回印象でことごとく試験に失敗していたのだ。

 しかし、今日の彼には絶対に失敗しない! という強き意志がみなぎっていた。その決意があらゆる気配りへと現れているのだ。その決意の根本とは一体なんであろうか。

 自身が魔道師になりたいからか。いや、それはずっと持ち続けている目標である。お母さんが応援してくれるようになったからか。確かにそれも一つあるかもしれない。だが、一番はシャントに応えたいということだった。ここまで様々尽くしてくれた彼女のためにもアルディは負けるわけにはいかなかった。

 人は自分のためだけに行動するのでは限界がある。何かのため、誰かのために行動する時、その可能性は無限大に広がる。なぜならば、他のために事を成す時には、妥協という壁が打ち砕かれるからだ。

 彼は、今はシャント一匹のものではあるが、他からの"期待"から逃げずにそれを背負ったのである。彼自身から"まぁ、これでいいだろう"という言葉はことごとく消え去っていた。あらゆることに気配りし、検討をしだしたのだ。

 彼は、持ち物を再確認し、鏡の前に立った。鏡に映った自分は、心なしかいつもよりたくましいように思えた。

 彼はうなづき心で叫んだ。

(よし、絶対勝つぞ!!)

 彼はサッとひるがえり、部屋のドアへ向かった。ドアを開けるや否や、一度振り返りシャントが入ったビンに視線を送る。彼女は体を上下させて寝ていた。昨日までの事、なかんずく昨夜の一件で様々あったためか、疲れているのであろう。

 アルディは感謝の想いで胸が熱くなった。シャントのおかげでここまで来れたんだ。やっと決める決意ができたんだ。彼の目は潤んだが、涙は落ちなかった。

 彼はシャントを見据えて、重ねて感謝と、勝利の決意を祈念し、部屋を後にした。